認知症の高齢者の方を相手にコミュニケーションを取る際、「どのように接すれば良いか分からない」と感じている方は多いかと思います。
しかし日々の介護を行う上で認知症の方の対応方法を知らないと、家族にとっても介護スタッフにとっても、そして患者本人にとっても、心身にかかる負担はより大きくなってしまうことでしょう。
そこで今回の記事では、認知症で現れる主な症状とコミュニケーションの方法、更に注意したいポイントについても解説してまいります。
どうぞ最後までご覧いただき、参考にしていただければと思います。
目次
認知症の主な症状
認知症とひと言で言っても人によって症状はさまざまですが、大きく分けて脳の機能が低下することで起こる中核症状と、それに伴い行動や心理的に現れるBPSDという症状に分けられます。
以下にそれぞれの特徴を紹介していきます。
中核症状
認知症の主な症状として、ほぼすべての認知症患者にあらわれるものです。
病気などの原因によって脳機能が低下し新しい物事や過去の出来事や経験を忘れてしまう「記憶障害」、人や場所、時間を認識できない「見当識障害」、話の内容が理解できない、少しの変化に混乱してしまう「判断力の障害」、物事を計画したり道具を上手く使うことが出来ない「実行機能障害」があります。
BPSD
上記であげた中核症状が進行すると、日常生活に適応できず難しく感じる場面が増えていきます。そこで感じるストレス等により現れる症状をBPSDと呼んでいます。
これは本人の性格や環境、身体の状態が影響する部分も大きいため、すべての認知症の方にあらわれるわけではありませんし、周囲の対応によって症状が改善していく場合もあります。
主な症状としては行動面で暴力や暴言、徘徊、拒絶、不潔行為があり、心理的には不安や抑うつ、幻覚や妄想、睡眠障害といったものが見られます。
認知症の方とのコミュニケーションの取り方と注意点
認知症を理解していない人の中には、認知症になると会話もできず何も分からないし話すことも全部忘れてしまうだろうという先入観により、コミュニケーションを取ることを諦めたり、疎かにしてしまうケースは少なくありません。
しかし多くの場合、認知症になって最近の出来事は忘れても古い記憶は覚えていたり、様々な感情も持っています。
認知症であろうとなかろうと、人とのコミュニケーションというのは生きていく上で必要なもの。そして当たり前のことですが、認知症の方と接する上で本人の自尊心を傷つけないよう配慮することは非常に重要です。
突然の変化を与えず本人のペースを大切に
認知症の方は急な変化やペースを乱されることにより、強い不安を感じたりパニックを起こしてしまうことがあります。
そのため、急に後ろから話しかけたり触れたりせず、視界に入るよう正面からゆっくり近づき声をかけるようにしましょう。
また、急がせたり慌てさせるような言葉や態度は出さないよう気を付け、本人のペースに合わせるよう意識しましょう。
言葉は簡潔に分かりやすく
認知症の方は長く説明したり、一度に多くの情報を与えられると理解することが出来ません。
そこで伝えたいことや質問したいことは一つずつ、分かりやすい言葉で簡潔な表現で伝えるようにしましょう。ここでも焦らせることなくゆっくりと待ち、一つが終わったら「次は〇〇しましょう。」というように声をかけてみて下さい。
気持ちに寄り添う
暴言や徘徊等の症状が出る時、介護する側の心の余裕もなくなりがちです。
しかしこれ等の言動や行動にも実は本人にとっては理由がある場合が多く、むやみに抑え込もうとしたり、ただ止めるよう言葉で伝えてしまっては「自分の気持ちを理解してくれない」と感じ、症状が改善することは無いでしょう。
そこで「どうしてそのような行動を取るのか?」その理由を考え、気持ちに寄り添う姿勢や態度を見せることで、認知症の方が安心し症状が和らいでいくケースが多く見られています。
日頃から温かな態度で接するよう心がけ、優しく手や肩に触れたり、目線も同じ高さに合わせて対応すると良いでしょう。
人格を否定しない
認知症になって出来なくなってしまったこと、分からなくなってしまったことは多いでしょう。
しかしそこにばかり目を向けていては、ご本人もどんどんと自身を失ってしまいます。
特に認知症の方に対して命令をしたり責め立てるような言動、表情には十分注意しましょう。
被害妄想がある時のコミュニケーション
認知症の症状には、「お金を盗まれた」「食事を与えてもらえない」といった被害妄想が見られることもあります。
そんな時は本人の訴えを頭から否定せず、まずはよく聞いてあげましょう。
そして「こちらで調べてみますね」というように対応することで、安心してもらえます。
徘徊時のコミュニケーション
認知症の方に見られる「徘徊」行動には、先述したように理由や目的がある場合が多いです。
そのため理由も聞くことなく無理矢理止めてしまっては、更に出ていこうとしたり暴れてしまう等、症状が悪化してしまう可能性があります。
本人の話をよく聞き気持ちに共感してあげること。どうしても外に出てしまう場合はついていって後ろから危険がないように見守り、しばらく様子を見てから「そろそろ帰りましょうか?」と声をかけてあげましょう。
症状が強い場合には、GPSや徘徊感知器などを備えておいたり、あらかじめ近くの交番や近隣の方にも説明しておき、いざという時に協力してもらえるようにしておくこともおすすめです。
認知症の方とのコミュニケーション技法「バリデーション」を学ぶこともおすすめ
認知症の方だけでなく、多くの介護施設やその他の業界でも活用されているコミュニケーション技法「バリデーション」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
1963年にアメリカのソーシャルワーカーによって創設された技法で、認知症の方の世界を否定せず、寄り添い、共感することを原則としたコミュニケーション方法です。
バリデーションでは、上記でも説明してきた通り、認知症の方の言葉や行動には理由があるということを前提に考え、会話の中でその理由を探るという目的があります。
ここでは概要のみで詳細はまた別の記事にてご紹介させていただきますが、基本は丁寧なコミュニケーションを取ることで、認知症の方の周囲には伝わりにくい本当の思いに歩み寄り、共感することで認知症のさまざまな症状を和らげたり、ストレスを解消させたり、自尊心を取り戻せるようにしていく技法です。
介護福祉士の方の中には既に学ばれた方もいらっしゃるかと思いますが、バリデーションの研修や勉強会はオンラインも含め各地で開催されているようですので、興味がある方はバリデーション協会のサイトの中の「バリデーション研修・勉強会予定」のページをチェックしてみて下さい。