認知症の症状が進むにつれて、家族やヘルパーの介護を嫌がる「介護拒否」という症状があらわれることがあります。
この症状は日頃お世話や介護を行う人に対し精神的にも身体的にも非常に大きな負担を強いることとなり、やがて自宅での介護に限界を感じ施設へ入れることも選択肢の一つとして考え始めるかと思います。
しかし認知症の方は施設への入所を嫌がる人がとても多く、説得するのも大変です。
そこで今回の記事では、認知症の方が施設の入居を嫌がる理由や対処法、施設の選び方について解説していきます。
どうぞ最後までご覧いただき、皆様の参考になればと幸いです。
目次
認知症の方が施設の入所を嫌がるのはなぜ?
認知症の症状の進行や悪化により、介護者からの食事や入浴など生活に必要な動作の介助やサポートを嫌がる「介護拒否」や暴言、暴力が始まり、介護する側にとっても何をしたらよいのかわからず精神的、身体的な負担が大きく自宅での介護が困難となってしまうケースは少なくありません。
そこで施設への入居を検討するも、認知症の方の中にはそれを強く嫌がる人がとても多くいらっしゃいます。
それは何故なのでしょうか。その原因をいくつか以下に紹介します。
環境の変化への恐れ
認知症の方は知らない場所に行くことや知らない人と会う等、環境の変化に抵抗を感じる傾向にあります。
認知症の親が施設を嫌がる理由について内閣府が行った調査では、「住み慣れた自宅で生活を続けたいから」が85.6%、「施設で他人の世話になるのは嫌だから」が21.8%、「他人との共同生活をしたくない」からが21.7%という結果が出ており、やはり環境の変化を嫌い最期まで住み慣れた家で暮らしたいと考える人が最も多いことが分かります。
認知症でなくてもほとんどの人にとって環境の変化というのはストレスを与えますから、認知症の方は特に敏感に感じるのでしょう。
「見捨てられた」ということへの怒り
次に認知症の方が施設へ入所を嫌る理由として、”施設へ入居=家族から見捨てられた”と感じることへの抵抗が挙げられます。
地域などにもよりますが「子どもが親の介護をするのは当たり前」と考えている高齢者は多く、「施設に入れるなんて恩を仇で返すのか!」「自分は家族(子ども)から見捨てられるんだ」等と感じ、施設へ行くことを拒むケースも多く見られます。
認知症であることを認めない
本人が自分は認知症ではないと思っていたり、認知症であることを受け入れたくないという理由で施設への入所を嫌がる場合もあります。
特に昔は認知症という言葉が一般的ではなく「痴呆」や「ボケる」という言葉が広く使われており、病気というよりは障害のようなイメージが強くありました。
そのため、特にプライドが高い男性の高齢者にとっては、自分がボケたということを認めたくないという思いから施設への入居を拒否する方が少なくないようです。
認知症の方が施設の入居を嫌がる時の対処法
認知症とはいえ大切な家族ですから、嫌がっているのに強制的に入所させるような方法は極力避けたいものです。
そこで、施設に入れるための効果的な対処法を紹介していきます。
精神的なケアと声かけ
上記で紹介したように、認知症の方が施設を嫌がる理由には見捨てられたと感じたり、プライドを傷つけられる等といった精神的な問題が潜んでいます。
そこで、家族や子どもからしっかりと愛情や感謝、労わりの気持ちや大切な存在であることを伝えることが重要です。
見捨てるのではなく健康で元気でいてほしいという願いから入所を勧めている、ということを伝えましょう。
また、施設に入ったらもう会えなくなるのではないか、と感じている場合もありますので、
今後も面会に行くことも伝え、孤独感や寂しさを軽減させることも忘れずに。
ショートステイの利用
認知症の方が嫌がる施設へいきなり入所させるのではなく、ショートステイを利用して徐々に慣れてもらうという方法もおすすめです。
先述したように認知症の方は環境の変化を嫌いますので、いきなりすべてを変えてしまっては大きな不安を感じるのも無理はありません。
ショートステイは最長で30日間利用できる制度です。
施設の生活に慣れるために少しずつ短い時間や期間から試し、無理なく入居へ移行させましょう。
専門家に説明してもらう
自分が認知症だと受け入れられない方の場合、医師やケアマネジャー、施設の職員などから認知症の現在の症状や状態について説明してもらうということも一つの手です。
家族からの話だと信じてもらえない場合でも、このような専門家である第三者から説明されることですんなりと納得するケースも実際にあります。
本人のプライドを傷つけずに施設へ入居させるにはおすすめの方法です。
認知症で施設を嫌がる場合の強制入所について
認知症で施設へ入るのを嫌がる場合の対処法を試してみても、理解してもらえず難しい場合は「強制入所」がありますが、強制入所をさせた場合、信頼関係が崩れるほか、入所後に施設のスタッフや他の入所者とトラブルを起こす可能性が高くなるというデメリットがあります。
特別養護老人ホームでは「養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設置者は、第十一条の規定による入所の委託を受けたときは、正当な理由がない限り、これを拒んではならない。」という老人福祉法がありますが、暴力は正当な理由とされ退所させられる要因となります。
それでも在宅での介護が難しい場合は最後の手段として強制入所を選ぶ必要性が出てきます。
うまく対応してもらえるよう施設の職員によく相談し進めていきましょう。
認知症の人が入居できる施設について
最後に、認知症の人が入居できる介護施設について紹介したいと思います。
特別養護老人ホーム(特養)
認知症を受け入れている施設で、月額の費用も低めのため人気です。
特養の入居条件は要介護度が3以上となっていますが、認知症の診断を受けている場合には要介護度2でも可能な場合があります。
従来型とユニット型があり、ユニット型は個室と共有リビングのある部屋で10人程のグループで生活するという特徴があります。
大人数で生活することは嫌という場合には、ユニット型の体制を選ぶと良いでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
高齢者向けのバリアフリー住宅で、費用はやや高いものの、一人暮らしや夫婦世帯でも安心して安全に利用できるという点がメリットです。
介護サービスについては外部のサービスを依頼する必要がありますが、介護型を選べば施設に介護スタッフが常駐しているため内部でサービスを受けることが出来ます。
似たようなものにシニア向けの分譲マンションがありますが、こちらは賃貸ではなく購入するもので設備基準や行政への届出の義務がありません。
グループホーム
グループホームは認知症の方を対象とした施設で、できるだけ自立した生活を送ることができるよう役割を分担したり、機能訓練を受けられるよう配慮されています。
施設によってケアの内容や範囲は異なりますので、入居を決める前に確認しておきましょう。
また、グループホームは地域密着型サービスですので、施設と同じ市区町村に住民票があることも利用の条件になります。
有料老人ホーム
基本的に住宅型や介護付きという種類の有料老人ホームが認知症の受け入れに対応しています。
住居型よりも介護付きの方が費用が高い分、症状が進んでも暮らし続けることが可能で、病院に入院が必要となった場合にもケアを受けることが出来ます。
一方で住居型は進行などの状況によって退去しなければならなくなる可能性もあるので注意が必要です。
認知症デイサービス
入居ではなく通所するタイプの介護保険サービスで、認知症向けのデイサービスです。
提供されるサービス内容は一般的なデイサービスとほとんど同じで、事業所の車で自宅と施設の間を送迎し、健康のチェックや食事、入浴、排せつの介助、機能訓練、レクリエーション等イベントの実施など、幅広いサポートを受けることが出来る魅力があります。
一般的なデイサービスとの違いとしては、認知症に関する高い知識と経験を持ったスタッフが働いているため、認知症の症状を把握したうえで適切かつ手厚いケアを受けられます。
家族にとっても心配せずに送り出せ、その間にリフレッシュや休息をとって日々の介護負担を軽減させることが出来ますので、在宅介護で一緒に暮らすことを選ぶ場合はぜひ活用いただきたいサービスです。
まとめ
認知症はその人ごとにさまざまな症状がありますが、施設の利用や入居を嫌がるケースは多い傾向にあります。
しかし強制入所は最終手段とし、まずは不安な感情や辛い気持ちに寄り添いできる限り本人が納得した上で入居できるよう、少しずつステップを踏みながら進めていきましょう。
また、施設を探す際は担当のケアマネジャーに悩みや希望を伝えて相談や質問をしたり、資料やパンフレットを請求し、サイト等も合わせt情報を収集しながら必ず見学や一日体験を申し込んで直接施設の雰囲気や設備、スタッフ等を見て比較・検討して選び、契約することがポイントです。
その際、本人もできるだけ一緒に同行しましょう。